会話の端々に飛び出す関西弁のイントネーション。関元千恵さんは大阪のご出身。地域おこし協力隊として2013年に沼田町に移住し、4年後にまち唯一のパン屋さん「せきPAN」を開きました。遠く関西からやって来て、田舎で商売を始めるのは苦労も絶えなかったはず。けれど、弾けるような笑顔を見ていると、立ちはだかる壁なんてなかったかのように見えます。さて、実際のところはどうだったのでしょうか?
「協力隊ってええやん」
みたいに気軽に移住!
- Q.まず気になるのは、なぜわざわざ大阪から沼田町に?
- 関元さん:よく尋ねられるんですが、たまたまなんです、ビックリするくらい。
- Q.たまたまってどういうことですか(笑)?
- 関元さん:小さなころから田舎に住みたいというあこがれはあって、北海道にも何度か旅行に来たことがあります。大阪のケーキ屋さんや料理教室で働いている時も、北海道内のホテルやリゾートバイトの求人はよく見ていました。
- Q.それで、沼田町を選んだ理由は?
- 関元さん:友人から「地域おこし協力隊って制度があるで」と聞き、さっそく探したところ、当時の北海道で募集があったのが沼田町。だから、本当に偶然なんです。飲食業界と違って土・日・祝日が休みだし、収入や社会保険もきちんとしているし、「コレはええやん」と気軽な気持ちで応募しました。
- Q.スゴい行動力ですね。
- 関元さん:裏を返せば何も考えていないというか…(苦笑)。当時の地域おこし協力隊のミッションは沼田町観光協会の一員として特産品の物販や観光PRをすること。活動の中では商工会のミーティングや農家のお母さん方の集まりに顔を出すことができ、人とのつながりを深めることができました。
- Q.結果として人脈づくりにつながったわけですね。
- 関元さん:一人ではこんなに小さなまちで生きていけないだろうから、できる限り人との関わりを大事にしたいと思っていました。私は田舎のカフェにあこがれがあって、町民の方に「協力隊の任期が終わったらどうしたいの?」と尋ねられたら、お店を持ってみたいと答えるなど少しずつ未来への種まきも意識しながら(笑)。
お店を形づくったのは、
まちの人のやさしさ!?
- Q.パン屋さんを開こうと思ったのはどうしてですか?
- 関元さん:沼田町にはパン屋さんがなく、「焼きたてのパンを食べたい」という声が多かったのが大きな理由。あと、私は発酵にも興味があったので、自分で育てた野菜や近所の方がおすそ分けしてくれる果物で自家製酵母のパンづくりをしてみたいと思ったんです。
- Q.物件はどうやって探したんですか?
- 関元さん:役場の地域おこし協力隊担当の方に相談したらこの家を見つけてくださり、持ち主の方との橋渡し役まで買って出てくれたんです。いわゆる都会の「お役所仕事」ではなく、こんなに親身になってもらえたことに感動しました。
- Q.じゃあ、お店づくりは順調に進んだんですね。
- 関元さん:それが全然(笑)。物件は見つかっていたのに、協力隊の任期が終了した時点で仕事もお店づくりの算段も何もかも決まっていなくて。幸い農家のお母さんから「バイトをしない?」と誘っていただき、夏の間は農作業で稼ぎながら少しずつDIYをしようかな~と。
- Q.DIYが得意なんですか?
- 関元さん:興味はあるほうなんですが、やっぱり専門知識が必要なので、友人とか沼田町の大工さんに手伝ってもらいました。まちの皆さんは本当にやさしくて、困っている時に素直に助けてほしいと伝えたら、親身に手助けしてくれるんです。厨房の壁をつくってもらったり、使っていないストーブを譲ってくれたり、あの冷蔵庫もいただきもの。一人ではお店は絶対にできあがっていなかったと思います。
- Q.どんなパンが人気??
- 関元さん:ご年配の方は、クリームパンやあんパンなどの柔らかくてベーシックな商品が手に取りやすいようです。子育て世代のお母さんや若い方は、ハード系のパンも買ってくださいますね。
足踏みするくらいなら
思い切って住んじゃえ!
- Q.お店は順調ですか?
- 関元さん:う~ん…。最初はパン屋さんだけで生活していけると思っていたけれど、今はまだそこまでではありません。なので、週に2~3日の営業にして、介護施設の仕事と兼業しています。ただ、徐々にパン屋さんに比重を置くためにも、近隣の道の駅に出店したり、最近移住してこられた方が開業した町内のベーグル屋さんと一緒に、新しくできた「まちなか」という地域の人が集まれる施設の中で、期間限定のコラボレーションをしたり、お店を知ってもらう取り組みに力を入れています。
- Q.沼田町でお店を開きたい人にアドバイスはありますか?
- 関元さん:お店を開くのってお金がかかるイメージですけど、このまちに関してはそれほど気構えなくて良いと思います。私の場合は物件も「取り壊すくらいなら使ってもらったほうがうれしい」と、驚くほど格安で譲ってもらえました。やってみたら、意外とやれちゃうんじゃないでしょうか(笑)。
- Q.まちの暮らしはどうですか?
- 関元さん:同い年の友だちと家で遊んだり、「ほろしん温泉」に行ったり、若い人も結構多いのでにぎやかに暮らしています。今度、本場の味が食べたいというからお好み焼きパーティも開く予定です(笑)。家賃も安いですし、かぼちゃやじゃがいもなども「こんなにたくさん食べられない!!」っていうくらいおすそ分けしてくれるので、生活コストも下がりました。
- Q.関元さんのお話を聞くと気軽に移住できそう。
- 関元さん:無責任なアドバイスかもしれませんが、もし移住を迷っている若い方がいるなら、取りあえず住んじゃえばいいんです(笑)。肌に合わなかったら地元に帰るという選択肢も全然アリ。ただ、町民の方はSOSを発信すると絶対に助けてくれる人ばかりなので、雪はねも、電気が壊れても、素直に頼っちゃいましょう(笑)。ここは人付き合いさえ嫌いじゃなければ、楽しく暮らしていけるまちだと思いますよ!